生きている奇跡


画太郎という漫画家がいる。
週刊少年ジャンプでデビュー,「珍遊記」「まんゆうき」「地獄甲子園」など連載する。
その後,一時消息不明に(?)。今はなき「コミックバウンド」(当時エニックス)で「虐殺ハートフルカンパニー」で復活(したんだと思う)。その後,「つっぱり桃太郎」「樹海少年ZOO1」(後半「つっぱり〜」と重なりあまりにも手抜…)「サラリーマン珍太郎」でなはぜか4回目を発表し休載。数号後,掲載紙にて突如連載中止のお知らせがあったり。現在,ヤングチャンピオンで「ブスの瞳に恋してる」を絶賛連載中の漫画家だ。
ほんと絵が汚いし,毎回全裸で殴りあってるし,バカだし,もうほんとどうでもいい漫画を描いている。
とはいうものの,僕はこの漫画家の作品は結構好きで,21世紀になって漫画を読む気力は失せたのに,漫画太郎だけは追っかけている。見逃しはほんのわずかだと思う。


画太郎のデビュー作はフレッシュジャンプ賞をとった,「エスカレーション」という作品なんだけど,最初からほとんど作風はかわらない。プロになってから,コピーと切り張りを駆使するようになったくらいで,同じ。進歩なし。そこが僕には心地いい。
この「エスカレーション」,主人公が,うっかり遅刻してきて始まる。サザエさんを彷彿させるうっかりちゃっかりした4コマ漫画風の絵で始まり,「遅刻遅刻〜」とか言いながら入ってきて,「(主人公は)しょうがない奴だな〜。アハハハ〜」とかクラスメイトから言われる。先生もほほえみながら「遅刻しちゃだめじゃないかー」とか言う。主人公が舌を出し「すいません〜,エヘ」とかおどける。次のページ開くと,一転,劇画タッチになり,鬼の形相と化した,先生が,「すいませんですむか,この外道が〜」とその中学生に殴りかかる。北斗の拳もまっさおにパンチを繰り出され,ボコボコにされる中学生,死ぬほど殴り,「死んだか」とかせりふを吐き,授業に戻る先生。死んだかに見えた主人公は,一転劇画タッチになり,先生に殴りかかる。これまた死ぬほどにボコボコと殴り,殺す。ぴくぴくと動く先生。その先生の体の中から化け物がでてくる。実は先生の正体はどっかの星から来たエイリアンだったのんだ!化け物になった先生はまた主人公に襲いかかる。攻撃に悶え苦しむ主人公。「万事休す!!なのか〜〜!!」叫ぶ。そして主人公が変身する。実は中学生は仮の姿でどっかの星から来たエイリアンを倒すために開発された人造人間みたいなものだったのだ。一転,反撃にでる主人公。ミサイルでとどめを刺す。エイリアンの死ぬ間際。一言「おおきくなったな。○○(名前,忘れた)よ。実は私はおまえの父さんなんだ」とか言う。「はっ」と我に返る主人公。どうやら本当に父さんらしい。死ぬ父さん。泣き叫ぶ,主人公。主人公は父さんの死を受け止め,成長する。「父さん,俺は父さんの分までやるよ,あはは〜」とか言って終わる。(※「 」中のせりふで正確なものはありません。うろ覚えなので予めご了承ください。)
書いていて,ばかばかしい話だが,中学生だった当時の僕は,少年ジャンプの作家が数年かけて描く話を,漫画太郎は31ページで描いていることに衝撃を受けた。長期連載でごまかされているけど,あり得ないほど論理破綻している話の漫画が結構多く,それを茶化す漫画が少年ジャンプからでてくることも痛快だった。
で,これを読んで以来,作中にあった「万事休す!!なのか〜〜!!」というせりふが気に入って,ピンチの度に,心の中でそう叫んでいる。


万事休す……もはや施す手段がなく、万策尽きる。もはやおしまいで、何をしてもだめだという場合に使う。 大辞林より


そして,現実に戻る。


木曜,深夜,ひとり事務所でこの日何度目かというシステムインストールにトライして,
無情なダイアログ「システムエラーです。うんたらかんたら」を目視し,ひとりつぶやく。


「万事休す」


月曜より続けたこの作業。一向に改善しない。
そして木曜夕方,予備のパワーブックを仕事用にセットアップを調整していたら,なんと――
そのパワーブックまでも同じ症状に!!
なんという無慈悲。なんという仕打ち。
まっさおになる顔色。
つもりつもる仕事。
刻一刻と過ぎてしまう時間。


絶体絶命の窮地にたち,このままなすすべなく破滅してしまうのか。
いや,このまま逃げよう,誰も僕を知らない地域でやり直そう――


という,思考に陥る5秒前。
踏みとどまり,もう一度。
最初から……


リトライ。
もう,何回目の最後なのだろうか。
まだ試していないアレがある。


アップルハードウェアテストを施す。異常なし。
MacOS10.3をクリーンインストール。問題なし。
MacOS9.2.2をインストール。現状異常なし。
ATM Light4.6.2をインストール。現状異常なし。
adobePS8.8including プリンタ記述ファイルをインストール。
再起動…
無情なダイアログ「システムエラーです。うんたらかんたら」を目視し,ひとりつぶやく。


「万事休す」



……



まだだ!


即,オプションを押して別システムで再起動!
予め,コピーしてあるsystemをダメシステムにコピー!
こうすれば1回だけ立ち上がる!

そしてすぐさま
adobePS8.5.2にバージョンダウン!


再起動



固唾を飲んで見守っていたその瞬間――



キターーーーー (゜∀゜)ーーーーーーー!



奇跡が起きたのか,正常起動!
念のため再起動
正常起動!!
別の必須ドライバーをインストール
正常起動!!
別の必須ドライバーをインストール
正常起動!!
別の必須ドライバーをインストール
正常起動!!
以下略




悪戦苦闘,艱難辛苦の末,手に入れたただの正常!
正常に使うことがこんなにも大変だなんて。
こんなにも難しいなんて。


そして,竜巻のように動くマウス。秒間3回入れるショートカット。秒間約12億5000万回論理回路内を巡るコンピュータのトリプルプレイ。
怒濤のようになくなっていく仕事。



生きているって素晴らしい。
そう思わずにはいられない瞬間だった。



だけど,純正ドライバが原因というのが解せない。
純正ということで最後まで疑えなかった自分も悔しい。
PawerMAC1.25GをDTPでお使いのみなさん。adobePS8.8は要注意です。



つづく