それから一週間

唐突にそれから一週間といってもなんのことかさっぱりわからないけど、
そう一週間前のあの日の夜。
僕は千代田区神田花岡町にいた。

某N島君の執拗な要請に抗うことができなかった。

11月下旬にN島君から電話がある。
「koicy、あれどうするよ。」と。

「いや、アレはアレだからアレで、アレだから、待ちだ。」と伝えると。

「おれは、アレだから、アレだ。よってアレ。つまり並ぶ。どうだ一緒に」と宣う。

!!

一緒に!?

3週間前、うっかり暴動が起きそうになったあそこに打って出るという彼の決意を聞き、で、僕も?!という戸惑い。
とりあえず、前向きに検討すると伝える。

後輩Iに電話。
彼も「アレは、アレでアレに比べれば、アレで余裕。アレはアレでいけますよ」と言う。

僕も後輩Iの言うとおりだと思い、
N島君に「アレはアレで、アレのアレ狙いで、アレに行く。確率は高い。」
と説得。

説得成功し、作戦変更が成功したかに見えた、
しかし、今度は僕に当日11時にアポが入ってしまう。
10時まで待たなければならない、本作戦の決行は不可能に…

そこで最初のN島の作戦
「アレはアレが7時だから、アレだ。9時にアレすれば、間に合う。やっぱりアレだ。」
やっぱりアレなのか…

もう僕ら立派な大人のはずだ。そんなことする必要もないはずだ。
20年前にあの日の僕は、今の僕を認めてくれるんだろうか。微妙だ。


そう、一週間前、僕はWiiを買うため、ヨドバシカメラ秋葉原にいた。
N島君は15年位の友人だが、そんなにゲーム好きな人だっけ? と思えるほどノリノリで「XBOX360ブルードラゴンセットで予約しちゃってさぁ。君もどう?」と勧められる。
彼は7時半からヨドバシをうろうろして8時の行列スタートと同時にならんだ。
寝袋持参の完全防備でその姿は勇ましかった。
僕はといえば、8時まで仕事して、これから始まる行列への加勢に暗澹たる面持ちで向かい、9時半に到着。
ヨドバシに入ると、店員の人に地下4階の地下駐車場に誘われ、人の流れに身を任せ、たどり着いたその先にあったモノは…
地下駐車場に敷き詰められた人・人・人であった。グループで来ている人々は、きゃっきゃっと楽しそう。サラリーマンらしき人は仕事上がり直行でスーツで体育座りで、ただ時間が過ぎていくのを待っていた。
N島君はだいたい400人目程度のところにいた。
しかしすでに800人を超える人がならんでいたし、何か、並ぶにあたって秩序らしきものがあるらしく、
割り込みは躊躇されたので、N島君とは別に最後尾から並ぶことにした。
N島君とは携帯電話が連絡手段で、20メートルも離れていないのに、そこに行って話すこともままならない軟禁状態となった。
N島君から寝袋を受け取り、最後尾にならび、またあたりをみまわす。
サラリーマンとか多いっぽい。
学生とかも多い。
結構、40歳オーバーのダンディな人の姿も散見され、ご子息にせがまれて行列に参加したんだろうその姿に目頭が熱くなる。
やっぱり、海を越えてやってきた方もいた。大勢でいらしているのに眉間にしわをよせ、楽しそうにWiiリモコンを振り、笑う姿を想像させない、近寄りがたい(近寄れないけど)気を発していた。
たぶん、駅とかを住処とする人も誰かしらに集められならんでいるんだろうなぁ。
Wiiを欲しいと思う心を持つ人、全てがここでは平等(同じ苦行を強いられる)なんだな。
などと思いながら、列の中で体育座り。
7時から販売を始めるといっている。しかし今の時間は9時半を超えたところ。あと10時間半。
その絶望的な長さに目眩。一仕事終わるよ。
完徹でアポ先へ行くのかよ…と断ればよかったと半ば後悔し、ただじっと過ぎていく時間を待つ。

すると、N島君よりTEL。
どうも10時過ぎに整理券を配布するとかしないとか言ってるぽい。と連絡。

しかし、整理券配布後もこの地下駐車場を出てはならんと言っているとかいっていないとかで、色々な情報が交錯する。

整理券を配布してもここでただ7時をまたねばならないなんてなんの為の整理券なんだ。
ここにいないと売らない→ほしければ居やがれと言うなんてそれは脅迫なんじゃないのかとか心に思考をうかべながら、すでにうつろになった眼差しで、はるか先方にいる店員に目を向ける。
前回(PS3)、混乱を極めたこの地の店員はかなりの必死さだ。

そして10時半。
店員が高らかに、
任天堂Wiiの数量、完売となりました。」
と宣言した。
わりと、どんよりと、しかし、食いつくようにどよめく行列の構成員。
遅れてどこからともなく始まる拍手。
そうだ。僕たち買えるんだ。
ちょっぴりうれしさがこみ上げる。

即刻、N島君からTEL。
喜びを分かち合う。

しかし、予断は許されない。
彼ら(ヨドバシの人)は僕たちを軟禁し続けるのかもしれないからだ。

しばらくすると、整理券を配布するとアナウンスがある。
前に行列する人が立ち上がり、ヨドバシの人が何を言っているのかわからない。
整理券は配られているようだ。
そして、N島君からTEL。
整理券を獲得し、歓喜の声が電波を超えてこだまする。
そして、僕が並ぶ列が、起立を命じられる。もはや、捕らわれているような感覚だ。
さっきまで、鬼の形相で整列指示をしていた店員が、天使のような笑顔で整理券を配る。
そして僕の番。
11:00から売ってやる。という旨。
混乱を避けるため時間差販売をするようだ。

そしてその場に待機命じられ、動けぬままじっとする約1500名のWiiに飢える、もはやヨドバシになすがままの人々。
まぁ、新宿の寒い空を眺めながら待つよりはましなんだろう。
まぁ寒くないし。

そして、最後の1人に整理券が手に渡った後――

ヨドバシ地下4階から解散が宣言される。
予告通り7時から販売。
ここでいったん解散し、また7時にきやがれ。という。
行列中盤の僕は7時に買う権利はない。
むしろ11時以降に来いというのは大変ありがたく、ヨドバシの人に感謝したいところ。

そして現在時刻は11時!!

帰れる!!

電車のない時間に解放されてもそれはそれで迷惑だけど、
帰れる時間に解放されるなんて!

それもこれも前回(PS3)の反省が活かされているちがいない。
こんな極限状態を強いて、人間が暴れない筈がない。暴れる人もでるだろう。

並び始めて90分、こんなにWiiが効率的にWiiが手に入るなんて!

ありがとう、PS3
ありがとう、ヨドバシカメラ秋葉原
ありがとう、誘ってくれたN島君


12月2日午後、無事Wiiを獲得。

つづく